
『ヨガの樹』の比喩的表現– ヨガの成長プロセス
はじめに
ヨガを続けていると、「今、自分のヨガはどこに向かっているのだろう?」と考えることがあります。初心者の頃はポーズを取ることに一生懸命になりがちですが、練習を重ねるうちに、ヨガにはもっと深い側面があることに気づくようになります。
B.K.S.アイアンガーの『ヨガの樹』では、ヨガの成長プロセスを一本の樹に例えています。この比喩はとても分かりやすく、ヨガの各要素がどのように関連し、成長していくのかを理解するのに役立ちます。
今回は、「ヨガの樹」という考え方をもとに、ヨガがどのように成長し、どのように深まっていくのかについてお話しします。
「ヨガの樹」の構造
アイアンガーはヨガの成長を一本の樹(Tree)として表現しました。これは、ヨガの実践がどのように発展し、最終的にどこへ向かうのかを示しています。
🌱 根(ヤマ・ニヤマ) – ヨガの基盤となる倫理的な指針
ヨガの樹の「根」にあたるのは、ヤマ(禁戒)とニヤマ(勧戒)です。
これらは、ヨガの精神的な基盤を支える重要な教えであり、しっかりと根付かせることで、ヨガの成長が安定します。
• ヤマ(禁戒) – 他者との関係性を整える倫理(社会的)
1. アヒムサ(非暴力) – 自分や他人に優しくする
2. サティヤ(正直) – 正直に生きる
3. アスティヤ(不盗) – 必要以上に求めない
4. ブラフマチャリヤ(禁欲) – 執着を減らす
5. アパリグラハ(不貪) – 物質的な執着を手放す
• ニヤマ(勧戒) – 自分自身との関係性を整える習慣(個人的)
1. シャウチャ(清浄) – 身体と心を清潔に保つ
2. サントーシャ(知足) – ありのままを受け入れる
3. タパス(精進) – 継続的な努力をする
4. スワディヤーヤ(学習) – 自己を知り、学び続ける
5. イシュワラ・プラニダーナ(信愛) – 自然の流れを信じる
これらの根がしっかりと育つことで、ヨガの実践はより安定し、深みを増していきます。
🌿 幹(アーサナ) – ヨガの身体的な実践
樹の「幹」にあたるのが、私たちが日々練習しているアーサナ(ポーズ)です。
• 幹は樹の中心となり、根(ヤマ・ニヤマ)から栄養を吸収し、枝や葉へとエネルギーを運びます。
• アーサナを通じて体を整えることで、心の安定も得られ、ヨガの成長が進んでいきます。
ただし、アーサナだけに集中しすぎると、バランスが崩れます。根(ヤマ・ニヤマ)がしっかりしていなければ、幹(アーサナ)は十分に成長しません。
🍃 枝(プラーナーヤーマ) – 呼吸のコントロール
ヨガの樹が成長すると、枝が広がり始めます。この枝にあたるのがプラーナーヤーマ(呼吸法)です。
• 呼吸は、生命エネルギー(プラーナ)を体に巡らせる重要な要素。
• アーサナと呼吸を連動させることで、心の安定が深まる。
• プラーナーヤーマを実践することで、体内のエネルギーの流れを整え、より深い瞑想へと進む準備ができる。
呼吸は私たちの心の状態を映し出す鏡のようなものです。落ち着いた呼吸を意識することで、心の揺らぎも抑えられます。
🍂 葉(プラティヤハーラ) – 感覚の制御
葉は太陽の光を受けて、エネルギーを作り出します。同じように、プラティヤハーラ(感覚の制御)は、私たちの意識を外の刺激から内側へ向ける役割を果たします。
• 普段の生活では、視覚・聴覚・触覚などの感覚に振り回されやすい。
• プラティヤハーラを実践することで、外の情報に影響されず、心を落ち着かせることができる。
感覚を制御することで、より深い集中と瞑想に入る準備が整います。
🌸 花(ディヤーナ) – 瞑想
花は樹の成長の象徴であり、美しさを表します。
ヨガにおいて、瞑想(ディヤーナ)は、心が静まり、深い集中状態に入ることを意味します。
• ここまでの段階(根・幹・枝・葉)が整うことで、自然に瞑想へと導かれる。
• 瞑想を通じて、自分自身の内側にある静けさとつながる。
瞑想は単なる「座る行為」ではなく、日々のヨガの積み重ねの結果として生まれるものです。
🍎 実(サマーディ) – ヨガの最終的な目的
最後に、樹が完全に成熟し、果実が実る段階がサマーディ(悟り)です。
• これは、個人の意識が完全に調和し、心と体、魂が一体となる状態。
• 日常生活の中でも「平穏な心」を持ち続けることができるようになる。
ただし、サマーディはゴールではなく、ヨガの樹は常に成長し続けるものです。
まとめ
• 根(ヤマ・ニヤマ) → 倫理的な基盤を整える
• 幹(アーサナ) → 身体を鍛え、整える
• 枝(プラーナーヤーマ) → 呼吸をコントロールし、エネルギーを高める
• 葉(プラティヤハーラ) → 感覚を制御し、内側へ意識を向ける
• 花(ディヤーナ) → 瞑想を深め、心を静める
• 実(サマーディ) → 最終的な調和と悟り
このように、ヨガは一つの要素だけでなく、全体がバランスよく成長することで、深い気づきへとつながります。
次回は、『ヨガの樹』から学ぶ実践のヒントについてお話ししていきます!